第10章 thought ■
「苗字は?」
「…え?」
「隼人くんの苗字はなんて言うの?」
まぁ…今更隠す必要もないか…
というかそもそも隠す意味もないし。
レオナのフルネームも知っちゃったわけだし。
「月島だよ?…月島隼人、ですっ。
初めまして!」
俺は明るくそう言って煙を吐き、右手を出した。
レオナは少し驚いた顔をしたが、どこか嬉しそうに笑ってその手を握ってきた。
「… 望月真珠です。初めまして。
月島…隼人…くん……かぁ…。良い響きだね…」
ゆっくりと手が離れていく。
「レオナの本名も、かなりいい感じだよ?」
「そおかな…。でも私、時々わからなくなるんだよね。
自分がレオナなのか、真珠なのか…。」
そう言って煙を下に吐くレオナに目を細める。
「ああ…わかる気がするよ。
俺もたまに、自分の本名がどっちだったっけって思う時がある。自分の人格もね…隼人なのか、龍也なのか…。」
どっちが本当の自分で、
どっちが本音で正解で
ちゃんとした中身なのか。
人格さえも…わからなくなる。
本来の自分の色んな部分を偽って、
抑え込んでるような気にさえなる。
そしてどっちつかずに混ざりあって、
自分という人間そのものが変わっていく。
中身も、外見も。
この世界にいる限り…
きっと俺もレオナもそうやって
混ざり続けて染まり続けて…
で、結果、どちらでもなくなる。
隼人でも龍也でもなく。
レオナでも真珠でもなく。