第10章 thought ■
「……異論は…ないです。」
私の言葉に夏樹さんはひとつ頷いた。
「では、後日、相手方の弁護士と接触してきます。
この仮示談書も後日として……こちら。」
その紙の隣に、違う紙を出してきた。
「私が今回のお仕事を請け負う上での契約書になります。
この示談書もそうですが、レオナさんの本名フルネームで記入をお願い致します。」
渡されたペンを持ち、ゆっくりとそこに記入していった。
かなり久しぶりに自分の本名を書いた気がした。
危うく書き方すら忘れてしまいそうな気もしたくらいだ。
夏樹さんは目を細めてそれを確認した後、
「ありがとうございます。
では、拇印で結構ですので…ここに……」
朱肉を渡してきた。
私はおずおずと親指にそれを押し付けて判を押した。
「はい。結構です。ありがとうございました。
今後とも私は最後まで精一杯サポートして参りますので御安心ください。望月真珠さん。」
「こちらこそ、ありがとうございます。
よろしくお願いします。」
久しぶりに呼ばれた本名のフルネームに、
少しだけむず痒さを感じてしまったが、
なんとか笑顔を向けた。