第8章 帰り道(岩泉)
「え?」
思わず気が抜けた声が出た。
「だって、彼女がいたら
その人が嫌がるようなこと、しないんでしょ?
だからです!でも、先輩に彼女がいなくてラッキーでした!」
"ラッキー" の言葉の意味はたぶん、
俺が想像したいこととは違う、気がする?
が何を言っているのか、よくわからん。
「………なんで?」
だから、聞いてみたけど
「だって彼女がいたら、飲みに行ったり
こうやって一緒に帰ったりすることもできなかったよな~って!」
たぶん今、俺たちは噛み合っていない。
それは、なんとなくわかる。
「俺は、さ。
飲みに行って、最初に話しかけられた時。
北一って聞いても、全然わかんなくて」
初めて会ったとき
いや、正確には久しぶりに、か?
でもとにかく、今のに会って。
「だけど、お前のとこ料理も美味いし、
それからたまに、こうやって行くようになって、
あと、少しずつ話したりして。
この前、飲みに行った時も。
が笑ってるの見ると、
あぁ、のこと。好きなんだなぁ、って」
そう、思ったんだって。