第1章 プロローグ
「卒業式おめでとうございます!
あの!すみません!
もし、よければ。ボタン、もらえませんか………?」
初めて勇気を振り絞ったこの瞬間
初めて岩泉先輩の正面に立ったこの瞬間
その時、声が震えていることは自分でもわかった。
ただ、突然現れた
岩泉先輩にとっては、誰かもわからない私。
ただ、上履きの色でたぶんひとつ下だと思われる私に
本当に突然そんなことを言われて。
ポカンとしていた岩泉先輩のことは今でもよく覚えている。
それがもう、どうしようもなく居た堪れなくて
「すみません!やっぱり大丈夫です!」
その言葉が喉まで出てきたんだけど、
それよりも、ほんのちょっとだけ前に
「あーーーーーうん。ちょっと待って」
そう言って、突然学ランのボタンを引っ張って
豪快にボタンを引きちぎらせてしまい
思わず、岩泉先輩の正面に立った時から下を向いたまま
上げることができなかった視線を上げてしまって
そしてそれ以上に、そのボタンが
上から2番目だったことにびっくりして。
視線を上げたその先には、
私の大好きな、そして今までで一番近い距離にいる
岩泉先輩。