第7章 帰り道
「俺は、さ。
飲みに行って、最初に話しかけられた時。
北一って聞いても、全然わかんなくて」
岩泉先輩が
ポツリ、ポツリと話し出す。
「だけど、お前のとこ、料理も美味いし、
それからたまに、こうやって行くようになって、
あと、少しずつ話したりして。
この前、飲みに行った時も。
が笑ってるの見ると、
あぁ俺、のこと。好きなんだなぁ、って」
話が向かう先がよくわからなくて、
とりあえず黙って聞いていたけど。
あれ?これは夢の中?
「あ、痛い」
「………なにやってんの?」
思わずほっぺたをつねった私に
呆れたような声がかかる。
「いや、夢の中なのかな?って思って………」
「………なんで?」
「………だって、先輩の話。
あまりにも私に都合が良すぎるから」
なんだか足元までふわふわしてる?
だけど
「………夢じゃねーよ」
ほっぺたをつねると痛かった。
私の手はこの寒さで冷たくなっていて
ほっぺたでも、自分の手の冷たさを感じてる。
そして目の前の岩泉先輩が「夢じゃない」って言っている。
なにが、起きてるの?
「あーーーーーもう!」
突然頭をくしゃくしゃってかきながら、
さっきより大きな声だったから。
ちょっとだけびっくりする。
「いや、すまん。こういうこと、
どうしたらいいのかよくわかんなくて」
今度は、小さな声
「ただ、さっき言ったみてーに………」
なかなか続かない、
岩泉先輩の言葉
「あの!」
我慢していたけど、我慢しきれなくなって
「私、岩泉先輩とこんなに仲良くなれるなんて。
思っていませんでした」
突然話を横取りしてしまったんだけど
先輩は、それを黙って聞いてくれる。
「先輩と仲良くなれて、
それだけでも夢みたいで。
だから、今が一番嬉しいし、楽しいし。
これ以上なんて望まないし、
望んじゃ、いけない、って」
今までずーーーっと思ってきたこと
「だけど、本当は」
そして、今までずーーーっと
隠してきたこと。