第7章 帰り道
え?
あまりにも驚いたのは
突然だったこともあるけど
それよりも、
こういう話題………
彼氏とか、彼女とか。
そういう話を、今までしたことはなかった
から。
「………いや、彼氏いるのに送ったりとか
よくなかったよなって、思って………」
いつもと違う、少し小さな声。
「え?!いや?!えっと、
大丈夫です。彼氏、いないんで………」
それに反して思わず大きな声が出てしまい、
慌てて口元を手で覆う。
「………あ、そっか」
「はい………」
今は何の時間なんだろう。
なんだか、気まずい。
「えっと、先輩は彼女とか………」
実は、いないことは知っている。
少し前に後輩が、岩泉先輩のお友達に聞いたらしく
それを教えてくれた。
「いたらお前と飲みになんか行かねーし」
好きな人には誠実なんだ。
さすかだな。
「それに、こうやって
送って行ったり、とか」
「先輩の彼女になれた人は幸せですね!」
「え?」
「だって、彼女がいたら
その人が嫌がるようなこと、しないんでしょ?
だからです!でも、先輩に彼女がいなくてラッキーでした!」
「………なんで?」
「だって彼女がいたら、飲みに行ったり
こうやって一緒に帰ったりすることもできなかったよな~って!」
本当にラッキーだと思う
こんなにカッコいい、
それも話したこともなかった初恋の人と
今こうやって同じ空気を吸って、
同じ時間を過ごしている。
吐く息が白い
冬の深夜に近いこの時間は、さらにしんと冷える
先輩の鼻の頭が赤くなってる
私もそうなのかな?
………だったら恥ずかしいな
だけどたぶん、これから
私は毎年冬になると、今日のことを思い出すと思う。
岩泉先輩を見つけた、中学2年生の1年間と
そして、今。
先輩を想った、
そして先輩と過ごした時間は
人生の宝物になると思う。