第5章 連絡
バイトが終わるとまず一番にヘアゴムを外す。
ただ、髪の毛に染み付く居酒屋独特のこの匂い、
いつまで経っても慣れない。
女子力が高い子たちはヘアスプレーで匂いを消してて、
隣の後輩も今まさにスプレーを当ててて
それをちょっとだけボーッと眺める。
それに気づいた後輩が、
「使います?」
「別に今日も帰るだけだから大丈夫です~!」
それを使うような予定があればいいんだけど
残念ながら、ない。
エプロンを外して、バッグの中からスマホを取り出す。
いくつかあるメッセージを上から開封していくんだけど
「………え」
思わず声が漏れる。
「どうかしたんですか?」
「あ、いや、えっと」
それだけ言うのが精一杯で
上手く言葉が出てこない
【岩泉です。バイトお疲れ。追加よろしく】
処分してくださいとお願いした連絡先
私が諦めるため
が目的だったから
本当に連絡先だけ書いたもので
そこには "連絡ください" とか、
そういうことは何も書かなかったんだけど。
どうしよう、
この人のことが好きだ。
「今日さ、岩泉先輩来てくれたじゃん?」
「でしたね!」
「で、連絡先書いた紙を渡したんだよね」
「やっとですか!」
「やっとっていうか、これで終わりにしようと思って」