第1章 高校2年の春ー転校生ー
玉子粥を作り終え高田の部屋を2度ノックする
返事がないので悪いとは思ったが静かに扉を開けた
「高田ー?」
部屋の窓際に置かれたベッドに布団を顎の下まで掛けてすやすやと眠る高田の姿がある
俺は部屋に入りベッドに近寄る
普段大人びている高田は寝ているとどこか幼くてまだ10代なんだな、と思わされる
「高田、起きれるかぁ?」
「ん...」
名前を近くで呼べば眠りが浅かったのか薄らと瞼を開く
「あ、そっか...先生ぇいたんだよね」
そう言って体を起こす高田は先程よりは少し顔色がよくなった気がした
「食えそうか」
「はい」
部屋を出てダイニングに向かうとテーブルに準備した玉子粥を見た
「先生こんなん作れるんですね」
「自炊してるからそれくらい作れるわ」
「へぇー...いただきます」
なんだよ、その「へぇー」って
意外だと思ってんのか?そう思ってると粥をパクりと口に頬張る
「ん、おいし」
「少しは食わねぇと体力戻らねぇぞ」
「これなら、食べれそうです」
美味しそうに食べてくれるので俺もつい頬が緩んでしまう
「おまえ1人でいたんだろ」
寂しくなかったか?と言おうとした時
「寂しくないですよ...夕飯も、いつも1人だし。慣れてます」
なんて言われた
普通の高校生なら絶対寂しい筈だ
俺には下に兄弟が6人もいるから寂しさなんて無縁だった
こいつはどうだろう
親は離婚して、兄貴も家に帰るのが遅い
家に帰っても「おかえり」を言ってくれる人がいない
そんな中病気で弱ってる時に誰も助けてくれずに1人静かな家で寝てるなんて
「無理すんなよな」
俺は色んな気持ちを込めてその言葉と共に高田の頭を優しく撫でた
「...まぁ...寂しくないってのは、嘘、です」
高田が小さくこぼした
「でも、母は頑張って働いてくれてるし、兄も自分の学費は自分で稼ぐって一生懸命バイトしてるし、私なんてバイトもしてないから家のことちゃんとしなきゃで忙しいから...一緒にご飯食べれなくても、寂しいなんて言えないですよ」
こいつは早く大人になろうとしている
まだまだ子供でいたっていいのに
甘やかせてもらえない状況にいるんだと思った