第12章 【一筋の涙】
「実は先ほどハリー・ポッターとも会ったんだが、君と同じでとても謙虚でね。伝記を書かせて欲しいと言ったら、興味ありません、と断られてしまったよ。君はどうかな?いい金になるが……」
「そのお話し、是非ともお聞かせ願いたいですわ!」
クリスが即答すると、エルドレドは満足そうに微笑んだ。クリスも、まさか金づるがこうも簡単に現れた事に、心の中でほくそ笑んでいた。
「そうか、少し話が長くなるかもしれないから、シャンパンでも飲みながらどうだい?サングィニ、悪いがシャンパンを取ってきてくれ」
「分かった……」
「昨年『ザ・クィブラー』を読んだ時から、君たちの事は気になっていたんだ。あんな胡散臭い記事なんかより、私ならもっと良いものが書ける自信がある!どうか是非ともインタビューさせて欲しい、時間は――」
「――さあ!こっちに来るんだ!!」
パーティの雰囲気をぶち壊すように、フィルチの怒鳴り声が部屋に響いた。誰もが振り返る中、驚いた事にフィルチはドラコの耳を掴んで部屋に入ってきたのだった。
「アーガス、これはいったい何の騒ぎだ?」
「スラグホーン先生!こいつが上の階の廊下をうろついていました!なんでもパーティに出るためだったと言っていますが……」
それにしては妙だった。ドラコはいつもの制服姿だったし、そもそもスラグ・クラブに入っていないドラコがこのパーティに出られるはずがない。
妙な違和感を覚えてドラコを見つめていると、ほんの一瞬だけ目が合った。
「先生、本当にこいつを招待したんですか?」
「いや、私はしていないが……」
「そうだよ、勝手に僕が押しかけようとしていたんだ!これで満足か!!」
やけくそになって怒鳴るドラコに、クリスはますます違和感を覚えた。クリスの知っているドラコは、自分から恥を晒すくらいなら死を選ぶようなヤツだ。それくらい、あいつの自尊心は高い。
「まあまあ、今夜は特別な夜だ。一度の過ちくらい許そうじゃないか。ドラコ、君もパーティを楽しんでいくと良い」
そう言って、スラグホーン先生はその場を納めた。
再び部屋にはピアノの音色が鳴り響き、人々は何事も無かったかのように会話を始めた。
そんな中でクリスが言いようの無い不安のようなものを感じつつ視線を戻すと、いつの間にか傍にサングィニが立っていた。