第12章 【一筋の涙】
4人は話しながら、マクラーゲンに見つからないように絶えずコソコソ移動した。その途中ネビルの姿を見つけたが、スプラウト先生と楽しげに話していたので、あえて話しかけずに過ぎ去った。
暫くはそんな風に人の目を避けまくっていたが、いつまでも逃げてはいられないという思いが頭を占めた。
「はあ……嫌だけど、また戦いに行くか」
「クリス、何と戦っているの?」
「……厳しい現実、とでも言っておこうか」
そう言い残し、クリスはハリー達と別れた。
誰か良い金づるを紹介してもらえないかとスラグホーン先生を探していると、背の高い男性と肩がぶつかった。
振り返った男性の顔はやつれ気味で、目の下にくっきりとクマがあって、何やら病んでいるように見えた。そう言えば満月の日が近くなると、ルーピン先生も同じように酷いクマを作っていた記憶がある。
「失礼、レディ」
「いいえ、こちらこそ失礼しました」
「おい!サングィニ!何をしている!?」
人ごみを掻き分け、小柄でメガネをかけた男が現れた。サングィニと呼ばれた男性は、疲れたようにため息をついた。
「勝手にいなくなるなといつも――おや、こちらのお嬢さんは?」
「先ほど、よそ見をしていたらぶつかってしまって。失礼しました、もう行きますね」
「いや、待ってくれ、その顔……どこかで見た事があるぞ……そうだ、新聞だ!『日刊預言者新聞』にとり上げられていた『救済の天使』じゃないか!!」
「チィッ」とクリスは心の中で舌打ちした。
どいつもこいつも馬鹿みたいに「救済の天使」がどうのこうのと!
しかし、それを顔には出さず、クリスは笑顔の仮面をつけて愛想を振りまいた。
「『救済の天使』だなんてお恥ずかしい。たまたまその場に居合わせただけです」
「いやいや、そんなに謙遜なさらず!是非ともその時の話を聞かせて欲しいんだ。――失礼、私はエルドレド・ウォープルという者で、本を書いている。こっちは相棒のサングィニ・ウォーレン」
「クリス・グレインです。よろしくお願いします」