第12章 【一筋の涙】
「失礼、スラグホーン先生。こちらの素敵なレディは?」
「これはシルヴァン、相変わらず目が肥えていらっしゃる。こちらは私の生徒で、クリス・グレインという。例の『救済の天使』ですよ」
「おおお!では貴女が魔法省で『例のあの人』を打ち負かしたうちの1人!?」
「打ち負かしただなんて……たまたま運が良かっただけですわ」
クリスはにっこり笑いながら、実際は召喚術よりも不意を衝いて喰らわしてやった頭突きの方が、ヤツを痛めつけていたと教えてやりたい衝動に駆られた。そうすれば、この人をなめまわすような視線を止めてくれるかもしれない。
クリスとシルヴァンが社交的な会話を続けていると、また1人知らない男が近づいてきた。今度はシルヴァンの友人で、アズワルド・ティーチという男だ。
このアズワルドという男も、クリスの外見に惹かれてやってきたみたいだった。いやらしい目でクリスを見てくるので、クリスはこの男に呪いをかけれたらきっと胸がスッとするだろうと考えていた。
やっと2人の男から解放され、クリスは大きくため息をついた。こんな顔に生まれて、良い事なんてやはりひとつもない事を実感する。
ふと隣を見ると、ネビルがいない事に気がついた。まああんなクソみたいな男2人がやって来たら、逃げ出したいのも分かる気がする。
「あら、クリス!」
聞きなれた声に振り返ると、そこにはハーマイオニーがいた。そのハーマイオニーの隣に、ガタイの良い如何にもスポーツマンという顔をした男が立っていた。
顔まではしっかり覚えていないが、うん、確かにコイツを本の角で殴った気がする。
「ねえコーマック、シャンパンを取ってきてくれない?のどが渇いちゃった」
およそハーマイオニーらしくない可愛い声でおねだりすると、コーマックはニカッと笑ってその場を離れた。その隙に、ハーマイオニーはクリスの腕を取って、人ごみを掻き分け部屋の隅に移動した。
「ハーマイオニー、何のまねだ?」
「シッ!あのマクラーゲンって男、本っ当に最低なの。隙あらば人にべたべた触ってきて」
「選んだのはハーマイオニーだろう?」
「ええ、そうね。復讐の為とはいえ、ちょっと選択を間違えたわ」