第12章 【一筋の涙】
「じゃあ行こうか」
「うん。あ、クリス、今日は杖を持ってきてないの?」
「正直悩んだんだけどな。でも不特定多数の人間に、母様の召喚の杖を触らせるのかと思ったら流石にな」
スポンサーを得るのに、召喚の杖があれば格好の餌になる事は分かっている。でもいくら将来の為とはいえ、そこまで身を落とすのは流石に躊躇われた。
スラグホーン先生の部屋に着くと、扉の向こう側からは既に大勢の客の声で賑わっていた。
ここから先は戦場だ、如何に愛想よくし、如何に多くの金ズルを捕まえるのかが勝負だ。クリスは大きく深呼吸すると、意を決して扉を開けた。
扉の向こう側は、これまでのスラグ・クラブでは見た事のないほど広く、大きく、また豪華に装飾されていた。
天井からは妖精の明かりをともしたシャンデリアが下げられ、幻想的な空気を作り出していた。部屋の奥には銀色のピアノが置かれており、燕尾服を着た奏者が心地よい音色を奏でている。
床は黒い大理石で出来ていて、その上を大きな金のトレイを持った屋敷しもべが走り回っていた。
「初めに言っておく、ネビル。帰りたくなったら私に構わず帰っていいからな」
「う、うん」
ネビルは少しこの雰囲気に気圧されている様だった。取りあえず部屋に入り、主催者のスラグホーン先生に挨拶をしなければ。クリスとネビルは腕を組んで、大理石の床を蹴った。
思ったより人が多いので、スラグホーン先生を見つけるのは手間だった。その最中、多くの男性がクリスの方を振り返り、微笑みかけた。それににっこりと笑い返しながら、クリスとネビルはスラグホーン先生の元に行き、挨拶をした。
「こんばんは、スラグホーン先生。今夜はお招きいただき、本当にありがとう御座います」
「おお!これはミス・グレイン!!なんと艶やかな姿だ、ミスター・ロングボトムが羨ましい」
ネビルは「あはは」と微笑で答えた。緊張しているみたいで、あまり言葉が出てこないようだった。クリスとスラグホーン先生が2、3言葉を交わしていると、そこに見知らぬ男がやって来た。