第10章 【悩めよ若人】
それはクリスが夜遅くまで図書館で勉強をしていた日に起こった。
マダム・ピンスに追い立てられるように図書館を後にし、沢山の本を抱えてどうにか『太った淑女』の穴をよじ登ると、何故か談話室の空気が淀んでいた。
嫌な予感がしたクリスは本をテーブルの上に置き、恐々ハリーに尋ねた。
「な……何があった?」
「実は――」
ひっそりと、本当にひっそりと声をひそめてハリーが説明してくれた。
クィディッチの練習が終わり、2人で談話室まで帰ろうとしていたら、偶然ジニーとディーンが濃厚なキスをしている場面に遭遇してしまったらしい。
それだけでも兄であるロンにしてみれば不快だろうに、あろうことか非難されたジニーが怒って、売り言葉に買い言葉で兄であるロンにこう言い放った。
「自分が誰ともキスした事がないからって、僻むのはやめてよ!」
さらに続けて
「ハリーはチョウとキスしたし、ハーマイオニーはクラムとキスしたわ!」
その話しを聞いて、クリスは思わず目頭を押さえた。
「どうして諍いの種をまき散らすんだ……」
「僕に言わないでよ」
「……ん?」
目頭を押さえていて気がつかなかったが、ふと顔を上げると目の前にロンが立っていた。そして何を思ったか、いきなりクリスに抱きついてきた。
「愛してるよクリス、僕には君しかいない!」
「ブッ!?」
「なっ!!?」
その瞬間、ハリーが勢い良く吹き出す音が聞こえ、流石のクリスも思わず固まった。しかしロンはクリスをギューっと抱きしめたまま、それ以上は何も言わなかった。と、言うよりも言えなかったんだろう。
傷ついた子供みたいに抱きつくロンに、クリスは在りし日のシリウスを重ねた。