第10章 【悩めよ若人】
「ロン……すまないがハリーから事情は聞いた。自棄を起こすのは止せ」
クリスはロンの背中辺りをぽんぽんと叩き、優しくなだめすかした。するとロンはゆっくりと腕を解き、クリスを解放した。
それからクリスは傍にあった椅子にロンを座らせると、優しい声で諭した。
「良いか、ロン。こう言うことには、真実の愛が必要なんだ。そうでないと相手も自分も傷つくだけだ」
「偉そうな事言ってるけど、君に愛の何たるかが分かるの?」
「ルーピン先生の事を忘れたのか?」
「そうだった、君も永遠に報われない恋を追いかけてるんだった」
「色々失礼だな、お前」
ちょっとでも同情してやったことが惜しくなったクリスだったが、ロンが少しいつもの調子を取り戻したようだったので、その場は良しとした。
「そうだよね、たかがキスだ。誰と誰がキスしようと、僕には関係ないことだった」
「その通りだロン」
「ところでクリス、君って家族以外とキスしたことある?」
「うっ!」
突然のカウンターに、今度はクリスが吹き出す番だった。
色々心当たりがあり過ぎて、クリスの頭の中は混沌を極めていた。しかしここで「Yes」と言ったら、きっとロンは永久に友人というものを信じなくなってしまうだろう。
仕方なくクリスは嘘をつくことに決めた。
「……な、ない……かな」
「え?でもクリス、確か魔法省でシリウスと――」
クリスは余計な事を言おうとしたハリーを、威圧的な眼力で黙らせた。
危なかった、シリウスとキスしたことはおろか、実はファーストキスの相手はロンだと事は、墓場まで持っていかなければならない秘密なのだ。これが知られたら、今度はハーマイオニーとの友情が終わってしまう。
どっと疲れて女子寮に戻ると、何も知らないハーマイオニーはベッドの上で黙々と本を読んでいた。
頼むからこれ以上悩みの種が増えない事を祈りながら、クリスもベッドに身を投げて目を閉じた。