第10章 【悩めよ若人】
マクゴナガル先生の執務室に通されると、先生は机を挟んでクリスに話をした。
「貴女の希望通り、私も私的な研究機関を探しました」
「在りましたかっ!?」
「話を最後まで聞きなさい。……在るには在りましたが、率直に言って直ぐ所属することは出来ないでしょう」
「どうしてですか?」
「公的な研究機関と違い、私的な機関では莫大な費用がかかります。貴女は……その、両親も後見人もいないので、先ずは資金を提供してくれるスポンサーを探す必要があります」
「す、すぽんさー?」
そこまで聞いて、クリスは目が点になった。全く予想だにしていなかった言葉に、頭が真っ白になったクリスに対してマクゴナガル先生は容赦なく話を続けた。
「ええ、そうですスポンサーです。平たく言えば出資者です。そういった人物がいなければ、独自で研究など無理でしょう。悪いことは言いません、先ずは別の職に就き、人脈を作ってから好きな研究機関に就職すれば――」
余りにショックが大きすぎて、そこから先の話はよく覚えていなかった。気がつくと、クリスはふらふらと廊下をさまよっていた。
……スポンサー、そんなもの考えたこともなかった。ただひたすらに勉強すれば、どこか良い研究機関に就けて、数年勤めれば念願の召喚術の研究が出来ると思い込んでいた。
甘かった、正直人生をなめていた。まさかこんな所でこんな挫折を味わうとは思わなかった。
「……どうしよう」
「どうしたのかね?ミス・グレイン」
顔を上げると、そこにはスラグホーン先生が立っていた。その後ろには、ハーマイオニーとネビルもいる。
またこれからお気に入りを集めた夕食会でも開くのだろう。人生の挫折という大きな壁にぶち当たったクリスには、最早どうでもいい事だった。
「顔色が悪いが、気分が優れないのかね?」
「ええ、まあ、そんなところです」
「それは残念だ。実は今日は最近マーリン2等勲章を取ったことで有名なイエーガー博士を夕食会に呼んだから、君もどうかと誘うと思ったんだが……」
――有名?
その言葉に、クリスの脳が反応した。そして瞬く間に人生設計の練り直しが行われ、最終的に脳裏に打ち出された言葉は『金づる発見』だった。