第9章 【疑惑の渦】
マンダンガスの所為で変な空気になってしまったが、忘れてはならない、今日は楽しい休日なのだ。
気分を入れ替えるため、美味しいバタービールで乾杯しようと席に着いて注文をした。
「じゃあ、バタービール4つ」
「……ロン?おめめがカウンターの向こう側に旅立っているみたいですけど?」
妙に刺々しいハーマイオニーの台詞に、ロンはハッと視線を戻した。
マンダンガスとのひと波乱があったというのに、どうやらロンの関心は曲線美が眩しい女主人のマダム・ロスメルタにあったらしい。それを知ったクリスは思わず頭を抱えてしまった。
美味しいバタービールで一杯やっても、4人の気持ちは上向きにはならなかった。おまけに外は吹雪になっていて、これ以上留まっていても良い事はないと判断したクリス達は、今日はもう大人しく城に戻ろうということになった。
『三本の箒』を出て、冷たい雪が吹き付ける中4人は黙ってメインストリートを歩いた。ふと前を見ると、ケイティ・ベルとその友達が楽しそうにキャッキャと声を上げて歩いている。
自分達もそれくらい楽しい休日だったら良かったのに――白い溜息を吐きながらそう思っていると、なにやら彼女たちの様子が変わってきたことに気づいた。
ケイティ・ベルと友達の声が、笑い声ではなく悲鳴に近くなっていた。何かを察知したクリス達は、目配せしあうと急いで2人に近づいた。
「それを放して、ケイティ!!」
「止めて!貴女には関係のないことよ!!」
雪でよく見えなかったが、なにやら2人は茶色い包みを引っ張り合っているようだった。
もっと近づいてよく見ようと目を凝らしたその瞬間、引っ張り合っていた包み紙が破れ、そしてケイティが舞うように宙に浮かんだ。
いったい何が起こっているのか分からなくて、ケイティの友達を含めクリス達は時が止まった様に呆然としてしまった。次の瞬間――ケイティが両目をカッと開いて恐ろしい叫び声を上げはじめた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!!」
「きゃああああ!!ケイティ!ケイティッ!!」
これはただ事ではない、何かの呪いの類だ。この数年間、数々の危険と戦ってきたクリスの感がそう告げていた。