第9章 【疑惑の渦】
外は凍てつくような寒さで、クリスは首に巻いていたマフラーをぐっと口元まで上げた。それから4人でかたまってホグズミード行きの馬車に乗り、やっと町まで着いたと思ったら、ダイアゴン横丁の様に多くの店が閉ざされ、あんなに賑わっていた町は嘘のように閑散としていた。
「どこに行く?」
「「「三本の箒」」」
ハーマイオニーの問いに、残りの3人は口をそろえた。ありがたいことに『三本の箒』は営業中で、4人は飛び込むように店に入った。
するとその時、勢いあまって入り口で人にぶつかってしまった。
「すみません!」
「いやぁ、気にする事はねぇ……って!?」
ぶつかった男が、なにやらひどく慌てた様子だったので不思議に思ってよくよく見てみると、なんと不死鳥の騎士団の1人であるマンダンガス・フレッチャーだった。
マンダンガスは、ぶつかった拍子に散らばった荷物を慌ててかき集めていた。その中に、見覚えのあるゴブレットがあった。
「ん?これ……」
「拾わなくていい、気にするな!」
マンダンガスがゴブレットをひったくるようにかばんに詰めようとした、その時――突然ハリーがマンダンガスの胸ぐらを乱暴に掴んだ。
「これはシリウスの物だろう?マンダンガス。ブラック家の家紋が入ってる」
「な……なんだって?か、家紋?」
「グリモールド・プレイスが本部じゃなくなったから、ひと稼ぎできると思ったのか?答えろ!」
「ハリー、駄目よそんな事!!」
ハーマイオニーが無理やり間に割って入ると、その隙にマンダンガスは「姿くらまし」をしてどこかへ消えてしまった。怒り心頭のハリーは、扉を蹴っ飛ばした。
「落ち着けハリー。城に戻ったら、シリウスに手紙で伝えておこう」
「そう……だね。ごめん」
「いつものハリーらしくないぞ、大丈夫か?」
「うん、ただアイツだって、不死鳥の騎士団の団員だろう?それなのにまるでその自覚がないから……」
確かにハリーの言う通り、皆が命がけの任務に就いている中ひとりで泥棒家業とは褒められたものではない。この意識の違いが、いつか仇にならなければ良いが……。