第9章 【疑惑の渦】
それから数週間が過ぎ、ホグズミード行きの週末がやって来た。その日の朝も、クリスは殆ど日課になっている早朝の図書館通いから直接大広間に行った。
良い参考書を見つけて少し良い気分でグリフィンドールのテーブルに向かうと、何故かハリーとロンとハーマイオニーの間に、不穏な空気が漂っていた。
「……一応聞いておく、何があった?」
「ハーマイオニーがプリンスを危険人物扱いするんだ」
「ただ足首を掴んで逆さづりにしただけなのに。そんなのフレッドとジョージだってやるよ」
「すまん、さっぱり状況が分からん。もっと丁寧に説明してくれ」
曰く、ハリーが今朝ちょっとした好奇心でプリンスの手書きの呪文を試したらしい。すると寝ていたロンの足首を、見えない手が掴んだみたいに逆さ吊りにしてしまったというのだ。
当の本人達は笑って済ましたが、それを聞いたハーマイオニーはあることを思い出したというのだ。そのあることとは――
「クィディッチワールドカップで、『死喰い人』たちが同じようにマグルの人たちを宙吊りにしていたわ。2人とも忘れたわけじゃないでしょう?」
「一緒にするなよ、ハーマイオニー」
「もしこれを書いたのが『死喰い人』だったら、わざわざ『半純血』なんて書かないよ」
「分からないわよ、本当の純血なんて殆どいないんだから。ねえ、クリス?」
「ん~……」
ハーマイオニーが云わんとしている事も、分からなくはなかった。実際、あのヴォルデモートだって本当の純血ではない。正しくはマグル出身だ。
しかしだからと言って、呪文1つであのプリンスを危険な『死喰い人』だと決め付けるのも早計な気がした。 クリス自身、今だ初めてプリンスの書いた手書きのメモから受けた衝撃を忘れてはいなかったからだ。
「まあ、今日は折角のホグズミード行きの日だし……喧嘩はやめないか?」
「喧嘩じゃないわよ、私はただ――」
「ストップ。それ以上の言い合いは無しだ」
手を挙げてハーマイオニーの言葉を制すと、ハーマイオニーはむっつり口を閉ざした。ハリーとロンも、一応これで納得したらしい。
言葉少なめに朝食を済ませると、4人は支度を済ませて玄関ロビーに出た。そこで何か危険なものを持っていないか、フィルチが「詮索センサー」を使って持ち物検査を行っていたので、いつもより出発に時間がかかってしまった。