第5章 【毎年恒例】
聞きなれた癪に障る声がして振り返ると、そこにはドラコが立っていた。
その両脇には腰ぎんちゃくのクラッブとゴイルが立ち、そして腕にはパンジー・パーキンソンがこれでもかと言わんばかりにベッタリくっ付いて勝ち誇った顔をしていた。
「乗らないんだったら、さっさとそこを退け。邪魔だ」
「誰が乗らないって言った?今、乗ろうとしていたところだ」
……今、自分をグレインと呼んだ――あのドラコが。
それはクリスにとって、例えようの無いくらい大きなショックを与えていた。実際、平然と受け答えしている様に見せかけて、クリスの頭の中は真っ白だった。
どんなに派手な喧嘩をした時だって、ドラコは決してクリスのことをファミリーネームで呼ぶことは無かった。いつだって、ドラコにとって自分は特別な存在だった。それが今ではパンジー・パーキンソン以下だ。そう思うと余計に気分が悪くなってきた。
馬車は列を作って坂道を登り、夜の静けさの中ゴトゴトと音を立ててホグワーツ城へと進んだ。クリスはショックのあまり呆然としすぎていて、馬車が城に着いた時も完全に上の空だった。
「クリス、降りないの?」
「え?あ?あ、ああ……すまない」
ネビルに声をかけられハッとしたクリスは、ようやく馬車から降りてホグワーツ城の玄関ホール前に立った。
――さっきの事は忘れよう。ドラコにしてみれば、私は父親の仇だ。憎まれて当然なんだ。クリスは自分にそう言い聞かせると、深呼吸をして気分を入れ替えた。