第21章 【あの約束をもう一度】
ギボンと呼ばれた『死喰い人』がルーピン先生に杖を向けた。それが合図となって、廊下は混戦状態になった。
クリス達が応戦している隙に、何人かの『死喰い人』が廊下の向こう側へと消えていってしまった。クリスはルーピン先生と離れがたいとも思ったが、今はドラコの方が先決だと考えて、ロン達にその場を任せると『死喰い人』を追って自分も廊下の向こう側へ走って行った。
廊下の向こう側では、他の『不死鳥の騎士団』のメンバーと『死喰い人』が戦っていた。
『騎士団』のメンバーは互いに背を向け身を守りつつ応戦し、その周りに『死喰い人』が群がっていた。戦況を見るに、かなり苦戦しているようだった。
ヘタに1歩足を踏み入れれば、忽ち呪文にぶち当たってしまうだろう。クリスは一瞬怯みつつ考えたが、何故か壮大なこの方法が上手くいくと信じることが出来た。
「 水底に眠る 清廉の乙女よ 」
クリスはこの苦戦状況を打破するため、二体の精霊を同時に召喚しようとしたのだ。
それは恐らく誰も試みたことのない、ある意味では暴挙だった。だがこの時のクリスには、少しでも早くこの戦いを終わらせるはこの方法しか思いつかなかった。
「 古より伝わりし 血の盟約において汝に命ず 」
――ドクンッ、と心臓が大きく鼓動した。体中をはしる血管が膨張し、血が溢れ返りそうな気分がしたが、クリスは研ぎ澄ました神経を緩めようとはしなかった。
早くこの戦いを終わらせ、そして……ドラコを迎えに行かなければ!クリスはギュッと杖を握りしめた。
「 ――出でよ、ウィンディーネ! 」
先ほどシルフを召喚した時と同じ様に、クリスの足元に光り輝く魔法陣が現れた。そして傍らには、1年生の時に初めて召喚した、あの優し気なウィンディーネの姿があった。
「よし、成功だ……ウィンディーネ!シルフと力を合わせて、ここの奴らを一層してくれ!!」
先に召喚していたシルフと一緒に、ウィンディーネは僅かにうなずいた。そして光り輝く金の三叉と、シルフの持つ銀の槍を交えると、『死喰い人』達を勢いよく竜巻で壁に吹き飛ばした。
それを見てニイッっと口の端を持ち上げて笑うクリスだったが、次の瞬間、体の重力が何十倍にもなって襲ってきて、思わずその場に膝をついた。