第20章 【束の間の別れ】
翌日、クリスが目を覚ますと、太陽は空の天辺にほど近い場所で輝いていた。ルームメイトの姿が全くないことを確認すると、クリスはあくびをしつつ大広間へ降りて行った。
静かな大広間でゆっくり紅茶を楽しみ、満足しながら談話室に戻ろうとした時、廊下で珍しい教師と出会った。――フィレンツェだ。
フィレンツェは禁じられた森へ一切出入り出来なくなるのも関わらず、ホグワーツで教鞭とをとる事を決めた珍しいケンタウロスだ。
そう言えば授業の時、時折フィレンツェはよく「マナがなんたらかんたら……」と言うが、ケンタウロスは人間よりマナを感じる力が強いのだろうか。
悩んだ末、クリスはフィレンツェの後を追いかけた。
「お早う御座います、フィレンツェ。珍しい所で会いましたね」
「あぁ……グレインの名を持つ子でしたか。今日はとても朝日が綺麗だと鳥たちが教えてくれて、城の外に出てみたんですよ」
そう語るフィレンツェの驚くほど青い目が、透き通るような青空を彷彿とさせた。同じ『占い学』のトレローニーが同じセリフを吐いても、これほど様にはならないだろう。
――その時クリスの脳内に閃きが走った。ここは一か八かの賭けに出てみよう。クリスはなるべく真面目に見えるようにふるまった。
「お願いがあります、フィレンツェ。この世に満ちる『マナ』について、彼方の知識をお貸しいただけませんか?」
「……私が教えずとも、彼方は既に召喚士として『マナ』の扱いを知っているはずです」
「それでは不十分なんです」
そのキリッと横顔は、クリスと言えど真剣そのものだった。
「『マナ』は生きとし生けるもの全てにその恩恵を与えてくれるはず。ですが私も含め、今の人間には『マナ』に対する感謝と知識が少なさ過ぎる。私は『マナ』の力をよく知り、より多くの人に恩恵を届けられればと思っています」
「それは思い上がりです。貴女1人が尽力したところで、人間は『マナ』の恩恵を感じようとはしない。『マナ』の存在を忘れたのは人間の方です。それを今更――」
「では、貴方が教師になったのは何故ですか?恩恵を忘れた哀れな子羊に手を差し伸べる為ではないのですか?」