第19章 【恋人たち】
「ド……ドラ、コ?」
「そ、そんな……僕、そんなつもりじゃ……」
ハリーも、自分のしたことが理解できていない様だった。クリスの隣に膝をつき、同じようにただ呆然とドラコを見つめていた。
するとマートルの声を聞きつけたのか、よりによって野次馬をかき分けスネイプがトイレに入ってきた。
「せ、先生……」
「退け、邪魔だ」
スネイプは杖を取り出し、まるで聖歌の様に美しい呪文を唱えながら杖で傷口をなぞった。すると徐々にだがドラコの傷口が塞がり始めた。
しかし、それでもドラコは目覚めない。スネイプは次に魔法で担架を出すと、それにドラコを乗せて医務室まで付き添うようクリスに命令した。クリスは言葉が出てこず、小さく頷きながら何も言わずにそれに従った。
医務室に着くと、すぐさまマダム・ポンフリーの処置が始まった。その間も、クリスはただ呆然とドラコを見つめているだけだった。
もし、ドラコがこのまま目覚めなかったらどうしよう……アイツは私にとって、半身と言っても過言ではない存在だった。物心つく前から一緒にいるのが当たり前で、父様さえ手を焼く私のご機嫌取りをいつもしてくれた。
いつも傍にいてくれた。いつも力になってくれた。それなのに、それなのに――私はまた、何もしてやれないまま終わってしまうのだろうか……。
「――グレイン、ミセス・グレイン」
マダム・ポンフリーの優しい声が降ってきて、クリスはハッと意識を元に戻した。気が付いたらドラコはベッドの上で安らかに寝ていた。
もう大丈夫なのだろうか?そう言いたくても、まともに言葉も発せない状態のクリスがマダム・ポンフリーの顔を見ると、それに応えるようにマダム・ポンフリーは優しい顔で微笑んだ。
「ミスター・マルフォイはもう大丈夫です。今は眠っていますが、じきに目を覚ますでしょう。……少し、傍にいますか?」
「はい……」
「分かりました。私は事務室にいますから、何かあったら声をかけて下さい」