第19章 【恋人たち】
「私にも話して、貴方の力になりたいの」
「無理だ、話したところで何にもならないッ……僕がやらなきゃ、僕が……殺される……」
「死んだら何にもならないのよ!?そうなる前に、お願い。私を頼って?」
「駄目なんだ、僕ひとりでやらなくちゃ……じゃないと、じゃないとアイツが……」
「……ッ」
その光景に耐え切れず、クリスの喉から小さく声が漏れてしまった。
その音を聞いた途端、ドラコがハッとこちらを向いた。その顔には幾筋もの涙の痕があったが、それ以上にクリスと一緒にいるハリーを見て怒りが頂点に達したようだった。
「……ポッタァア……!!」
「クリス!下がって!!」
「駄目だ、やめろ2人とも!」
ドラコが杖を掲げたと同時に、ハリーもローブから杖を取り出した。しかし今更クリスの言葉など聞く2人ではなかった。
2人はほぼ同時に呪文をかけると、杖から出た閃光がぶつかり合って散り、壁や床に大きく穴をあけた。
「止めろ!ハリー、駄目だ!!ドラコも止せ!!」
「やめて!!やめて、やめて!!」
クリスの声とマートルの声が、トイレに留まらず廊下まで広がっているのに、ハリーとドラコは止めるどころか増々攻撃が激しくなっていった。
かくなる上は……。クリスが身を挺して2人の間に割って入ろうとした、その瞬間だった――。
「クルーシ――」
「セクタムセンプラ!!」
ハリーの魔法がドラコにぶち当たった瞬間、ローブ諸共見えない刃物で切り付けらたように、ドラコの体から大量に血が噴き出した。
ドラコはよろよろと後ずさると、そのまま倒れて動かなくなった。それを見て、クリスの脳裏に自分をかばって死んだ父の姿がよぎった。
「きゃああああああああぁぁぁぁぁ!!!」
全ての出来事をかき消すかのように、マートルの凄まじい叫び声がトイレと言わず城全体に行き渡った。
それを聞きつけて数人の生徒達が集まって来たが、クリスは頭が呆然として、言葉が耳に入るどころか自分が何をしているのかも分からなかった。ただ動かなくなったドラコの傍に座り、その手を握りしめた。