第19章 【恋人たち】
もちろん他の人間ならここまでには成るまいが、この6年間温かく見守ってきた2人だ。クリスは2人の関係に珍しく興味津々だった。
「チッ……いつも地図を覗いているのはそっちの方じゃないか」
「僕はマルフォイの動向を探ってるんだ――あっ」
動く階段を難なく飛び越えながら、地図を覗いていたハリーが突然言葉を切った。まさかロンとハーマイオニーの身に何かが!?と慌てたクリスだったが、ハリーは至極どうでも良い報告をしてきた。
「マルフォイが……男子トイレにいる」
「そりゃドラコだって出すもんは出すだろう」
あまり想像したくないものを想像してしまい、クリスはげんなりした。と、次の瞬間、ハリーは思いもよらない発言をした。
「それが『嘆きのマートル』と一緒なんだ……」
「なん……だと?」
「ほら、見て!」
確かにハリーの言う通り、ここからすぐ下の階の男子トイレに、ドラコの名前が書かれた丸い点と、マートルの名前の書かれた丸い点が隣り合っている。
ドラコの性格からして、マートルの居るトイレで用を足すとも思えないし、そもそもマートルを視界に入れるのすら嫌がりそうなのだが……。
これはかなりスキャンダルの臭いがすると思ったクリスとハリーは顔を見合わせると、急いで、且つ、足音を立てずに階下に走って行った。こういう時ばかりは、何故か気の合うハリーとクリスだった。
件のトイレの前に立った2人は、取りあえずドアに耳を当ててみた。が、何も聞こえない。こんな時「伸び耳」があれば事は楽だが、生憎無いものは無い。
仕方なくハリーを先頭にそっと扉を開けると、中からすすり泣く声が聞こえてきた。
「お願い、やめて……もうやめて……」
ハリーと扉の隙間からそっと中を覗くと、なんとドラコが洗面台の両端を握りしめながら、膝を折って項垂れているのが見えた。
そのドラコに寄り添うように、透けた体のマートルが一生懸命慰めようとしている。
本当に一生懸命で、その健気なマートルとドラコの姿を見た時、クリスは頭を鈍器で殴られたような気がした。