第19章 【恋人たち】
「まあモルモットまではいかないにしろ、良い様に利用されない為の実績は必要不可欠だな」
「例えば?」
「単純に論文を書いて認められるとか、実験を成功させるとかだ。そうすれば金を出す人間も出てくる」
口で言うのは簡単だが、それがとてつもなく難しい事は理解している。だが、クリスだってこの1年間無駄に勉強してきた訳ではない。それなりの準備だってちゃんとしてきていた。
「今はまだ理論だけの代物だが、良い機会だ。そろそろ実験段階に移っても良い頃かもしれないな」
「それって、何か新しい魔法でも考えてるってこと!?」
「魔法……じゃないな。『素精霊』の力を借りた全く新しい分野だよ」
『素精霊』とは書いて字のとごく、精霊の素となる存在だ。力は弱いがこの自然界に無数に存在しており、度々『オーラ』や『マナ』とも呼ばれている。
彼らの恩恵は召喚士でなくとも受けられるので、最後の召喚士であるクリスは後世を考え、授業の傍らずっと研究を続けていた。
「でも凄いね、新しい術の開発とかまるでプリンスみたいだ」
「正直に言うとプリンスの教科書を見て決意したんだ。同じ学生なら、自分でも出来るはずだって思ってね。……まあ残念ながら、プリンスの域までは達してないけれどな」
悔しいがそれは事実だった。ハリーから見せてもらった「プリンス」の教科書には、独自に開発した様々な魔法が書かれていたが、クリスはまだ何一つ形として成せていない。
しかしドラコの心配が片付きそうな今なら、もっと研究に集中できるだろう。そう考えるとクリスは柄にもなく胸がわくわくした。
それからさらに2、3日後。例の首飾り事件で入院していたケイティが学校に戻ってきた事で、グリフィンドール寮生の間でクィディッチ熱が一気に高まった。
そのお陰でクリスが談話室や空き教室の隅でコソコソと実験をしていても、気に留める人間は誰もいなかった。