第15章 【名前のない感情】
「ロン、平気?」
「ロン?」
身体に障らぬよう小さく声をかけると、ロンの瞼がゆっくり開いた。まだ薬が効いているのか、半分意識が無いようだ。
そんなロンの瞳がぼんやりとハーマイオニーを映したかと思うと、ロンは布団の隙間から震える手を伸ばした。
「ごめ……ん、ハー……マイ、ニー、僕が……悪か……た」
途端にハーマイオニーの目から滝のような涙があふれ、ハーマイオニーは唇をギュッと噛み締めると、何も言わずしっかりと両手でロンの手を取った。するとロンは安心したのか、また目を閉じて静かに眠り始めた。
これ以上ここに居るのは野暮だと思ったクリス達は、ロンとハーマイオニーを2人きりにすべく医務室から出て行った。
「しかし、誰が何のために毒なんか仕込んだんだろう?」
医務室の扉の前で、ジョージが呟いた。フレッドもそれが知りたそうに会話を続けた。
「ダンブルドアから聞いた話じゃ、スラグホーンとか言う先生から飲み物を受け取った直後だったんだろう?ハリー、間違いないよな?」
「うん、だけどロンを狙った可能性は低い」
「どうして分かるんだ?」
「毒はビンの中に入ってた。寧ろ、狙うなら僕だ」
確かにハリーを――『選ばれし者』を狙う輩は多いだろう。だがあのスラグホーンが『死喰い人』だとは到底考えられなかった。
もしスラグホーンが犯人なら、ハリーを殺す機会は今までにだって沢山あったはずだ。使う毒にしてももっと致死率の高いやつを使っただろう。
「ケイティの時といい、今回といい、無差別って可能性は無いのか?」
「無差別か……だとしたら、犠牲者が増える可能性があるな」
「そうなる前に、きっとホグワーツは閉鎖になるわ」
ジニーの言うとおり、特別措置を施したにも拘らず生徒が2人も死にかけたのだ。生徒達の親はもちろん、理事会が黙っていないだろう。
その後、ウィーズリー夫妻がやってきて、ハーマイオニーと入れ違うように医務室へ入って行った。
正直まだロンの傍にいたい気持ちもあったが、折角家族が揃っているところを邪魔したくはない。ハリー、クリス、ハーマイオニーの3人は無言で顔を見合わせると黙って医務室を後にした。