第15章 【名前のない感情】
誰も口を開く気になれず、会話もないまま静かに廊下を歩いていると、巨体を揺らしながらハグリッドが向こう側からやってきた。恐らくロンの事を聞いたのだろう、心配そうに顔を歪めている。
ハグリッドはハリー達3人の顔を見ると、慌てて近づいてきた。
「いっ、今スプラウト先生からロンの話を聞いて……毒を盛られたって本当か!?」
「うん……でも、もう大丈夫、みたい……」
「信じられねぇ!いったい誰がそんな恐ろしい事を!!」
「……多分、ケイティの時と同じ犯人よ」
それまでずっと黙って下を向いていたハーマイオニーが、ぽつりと呟いた。彼女特有のはつらつさはなく、その声は深い湖の底の様に静かだった。
「一見無差別のように見えるけど、どちらとも目的の人物まで届かなかっただけだわ。それに殺意は感じるけど、どちらも死に至っていない点も同じ」
「それは、運が良かっただけじゃ……?」
「勿論それもあるわ。ただ、殺人を犯すには計画が稚拙すぎる」
稚拙な犯行、それでいて確かな殺意――その言葉を聞いて、クリスはドラコの顔を思い浮かべた。
もしドラコが『死喰い人』として誰かの抹殺を命じられたのだとしたら……。それに対しスネイプが助力を申し出たが、ドラコはそれを断った。
理由は――何だろう、分からないけど凄く胸騒ぎがする。
とにかくドラコの計画を暴かなければ。あいつに人殺しをさせるわけにはいかない、あいつの手を汚させるわけにはいかない。
それは愛とか恋とか陳腐なものではなく、心の底から湧き上がる名前のない純粋な感情だった。