第15章 【名前のない感情】
今すぐロンの顔が見たい。だが医務室の扉には鍵がかかり、無機質な面会謝絶のプレートがそれを阻んでいる。
何故、どうしてこんな事に……。そればかりが頭の中を駆け巡り、時間だけが無為に過ぎて行った。
ロンが倒れたという知らせを聞いてから約1時間後、立ち尽くすクリス達の前にフレッドとジョージが姿を見せた。2人ともいつものおちゃらけた雰囲気を取っ払い、しっかりとした表情で兄妹代表としての役目を果たそうとしているのが分かった。
「悪い、遅れた。ジニー、大丈夫か?」
「ジョ、ジョージ……」
「まだ医務室には入れないのか?」
フレッドの言葉に、ハリーが僅かに首を横に振った。ジョージは末っ娘のジニーを慰めようと両手で抱き締め、片やフレッドはハリーを元気付ける様に肩を叩いた。
「今、親父とお袋がダンブルドアから詳しい事情を聞いている。ハリー、お前がロンを助けてくれたんだってな、ありがとう」
「助けただなんて、僕はただ……」
「謙遜するなよ、俺達お前に感謝してるんだ。ジニーや親父に続いて、ロンまで助けてくれたんだからな」
フレッドはそう言ったが、ハリーは黙ったままだった。フレッドとジョージの登場で少しは場が明るくなるかと思ったが、医務室の前は相も変わらず重い沈黙が続いた。
みんなロンの快復を祈りただジッと待っていると、静かに医務室の扉が開いた。中からマダム・ポンフリーが厳かに顔をのぞかせ、集まった人たちの顔を見てこう言った。
「ウィーズリーはもう大丈夫です、安心なさい」
それを聞いて、一同は声にならない声と共に大きくため息をついた。それと同時にクリスの腕の中で、ハーマイオニーが食いしばった歯の間から小さく嗚咽を漏らす音が聞こえた。
「あの、ロンに会うことはできますか?」
「ええ……面会時間は1時間だけです。それと、絶対に患者の近くで大声を出さないように」
マダム・ポンフリーの言うとおり静かに病室に入ると、幾つも並んだベッドの上でロンが目を閉じて眠っていた。一命を取り留めたその顔色は決して良いとは言えず、うなされる様に何か小さな声でブツブツ呟いている。