第15章 【名前のない感情】
クリスは読んでいた本をその場に投げ捨て、急いでハリーと一緒に医務室へ飛んで行った。幸い毎日忍びの地図を眺めていたお陰で近道には詳しくなっており、最短距離で医務室へ行くと、扉の前にハーマイオニーとジニーが立っていた。
「ハーマイオニー!ジニー!」
「クリス……あの……ロ、ロンが……」
ジニーの顔色も酷かったが、ハーマイオニーはそれ以上だった。顔は青白いを通り越して全くと言って良いほど血の気がなく、全身が小刻みに震えていて、立っているのが不思議なくらいだった。
クリスは文字通りハーマイオニーを支えるように彼女を抱きしめた。
「大丈夫だ、ハーマイオニー。ロンを信じろ、あいつは簡単に死ぬような奴じゃない」
「でも私、ロンに言ってない……ごめんなさいって、まだ仲直りしてない……」
「言う機会は沢山ある。そんなに落ち込むな」
ハーマイオニーの背中をさすりながら、クリスはハリーとジニーに目くばせした。
「何があったか聞いても良いか?」
「ロンが、誕生日プレゼントに紛れていた僕宛の大なべケーキを食べたんだ。その中に『愛の妙薬』が入ってて……僕、ロンを治して貰う為にスラグホーン先生の所に連れて行ったんだ。先生に解毒剤を調合してもらって……その後、気付け薬代わりに蜂蜜酒を飲んだら、突然ロンの様子がおかしくなって……」
本当に消え入りそうな声でハリーが説明すると、耐え切れなくなったのか、ジニーが力尽きたようにその場にしゃがみこんだ。
「どうして……どうしてロンなの?ダンブルドア先生は、ロンを狙った可能性はゼロに等しいって仰ってたけど……それならどうしてロンがこんな目に遭うの?どうして他の人じゃ駄目だったの?」
「ジニー、ごめん……僕の所為だ。僕が居るからこんな――」
「違うわっ!ハリーの所為じゃない事くらい分かってるわ!!でも……でもっ!!」
やり場のない憤りを抱えたジニーは、しゃがんだ姿勢のままポロポロ涙を流した。
静かな廊下に、ジニーの嗚咽が響き渡る。それを聞きながら、クリスはハーマイオニーの背中を擦り続けた。