第15章 【名前のない感情】
クリスは8階をくまなく探索したが、ドラコの影すら見つけられなかった。諦めて談話室に戻ろうとしたその時、クリスはやっと気づいた。
この廊下は『あの部屋』が――去年DAの会合の時に散々使った『必要の部屋』が隠されている廊下ではないか!!
クリスは早速『必要の部屋』の前に立ち、「ドラコが隠れている部屋に行きたい」と心の中で唱えてその場を3回往復した。しかし扉が現れるどころか、取っ手の1つすら出てこない。
何回か唱える言葉を変えて試してみたが、やはり『必要の部屋』は現れなかった。
「――で、諦めて帰ってきちゃったの?」
「仕方がないだろう、もう寮に戻らなきゃいけない時間だったんだから」
厳戒態勢がひかれ、ホグワーツの見回りをする先生も増えている。そんな中、用事もないのに8階の廊下をウロウロしていたら、たちまち捕まって罰則を食らうのは目に見えている。生憎とそんなものに時間を割いているほど暇ではないのだ。
「でも場所が分かったんだ、何を企んでいるのか暴くのは簡単だろう?」
しかし、現実はそう上手くいかなかった。女の子に変装したクラッブやゴイルをなんとか出し抜いても、問題の『必要の部屋』に入る方法が全く分からなかったのだ。
もちろんクリスだけでなく、ハリーやロンもどうにか『必要の部屋』に入れるよう最大限の努力はしたが、結果は変わらなかった。
* * *
そんなこんなで時間ばかりが過ぎ、とうとう3月に入った。クリスはもう無理やり『必要の部屋』に入るのを諦め、その代わりドラコが出てくるまで部屋の前で待ち伏せする事にした。
変装したクラッブやゴイルをあの手この手でその場から追い払い、本を片手に『必要に部屋』が隠れている壁に寄りかかってドラコが出てくるのを待つ。それがクリスの新しい日課になった。
その日も図書館から借りてきた本を読みながら8階の廊下に立っていると、ハリーが息を切らせてやって来た。クリスがいつも通り「成果無しだぞ」と言おうとした時、ハリーの顔色が真っ青で、今にも倒れそうな事に気づいた。
「……ハリー?どうした、大丈夫か?」
「ロ……ロンが……」
「ロンどうした?顔色が普通じゃないぞ」
「ロンが、ロンが毒を飲んだ。今、医務室に……」