第15章 【名前のない感情】
8階は『天文学』の塔やふくろう小屋へと続く階段などがあり、これと言って怪しい場所ではない。それなのに何故クラッブがそこに居るのか、それも全く動きもせずに。それが逆に怪しいとクリスはにらんだ。
クリスは地図を見ながら8階への階段を上った。依然としてドラコの点は見つからないが、クラッブの点も消える様子はない。
クリスが慎重に足を進めると、8階の廊下に1、2年生くらいの女の子が立っていた。手に花瓶持って、誰かを待っているみたいだった。
「あの――」
声をかけようとして、クリスはとどまった。……待てよ、あんな所に女の子なんて居ただろうか。
忍びの地図を確認すると、女の子の居る場所に書いてあるのはクラッブの名前だった。それを見たクリスは一瞬混乱しかけたが、直ぐにニィッと口角を上げた。
「キャロライン!そこに居たのか!!」
クリスが大きな声で女の子に声をかけると、女の子は大きく目を見開いて手にしていた花瓶を落とした。たちまち8階の廊下にガラスの割れた音が響く。
そんな事はお構いなく、クリスは親しげに女の子に近づいた。
「驚かせてすまなかった、平気か?手を切ったんじゃないか?」
「あ……え、だい、大丈夫だから……」
「念のため医務室に行ったほうが良い。それとも――ここには何か『大事な用』があるのか?」
クリスが意味あり気に問いかけると、女の子は勢いよくブンブンと首を横に振ってその場を去っていった。すかさずクリスが忍びの地図を見ると、クラッブの名前が書かれた点がその場から移動しているのが分かった。
どうやって変身したのかは知らないが、あの女の子はクラッブだったのだ。ハリーが「ゴイルとクラッブは何らかの見張りをさせられている」と言っていたが、恐らくはこの事だったのだろう。
後はドラコがどこに隠れているのかを突き止めるだけだ。