第2章 【スタートライン】
新しい先生という事は、もちろん担当する教科は『闇の魔術に対する防衛術』に決まっている。
それなのにスリザリンの寮監だった人間をわざわざ隠居生活から引っ張り出してまで呼び戻すなんて、ダンブルドアは何を考えているのだろう。
クリスが眉をひそめていると、ハリーが慌てて付け加えた。
「あっ、でも悪い人じゃない見たいだよ。少なくともアンブリッジよりかはマシ」
「底辺と比べてどうする、底辺と」
「あはは……だよね」
そんな話をしていると、誰かが扉をノックした。ハリーが返事をする前にパッと扉が開き、フラー・デラクールが朝食を持って部屋に入って来た。
フラーが部屋の中を1歩1歩ユラユラ歩く度、ハリーとロンの頭もユラユラ揺れた。それもこれも、フラーの祖母であるヴィーラの血の所為であろう。
フラーは朝食の乗ったお皿をハリーの膝の上に載せると、軽く頬にキスをした。その瞬間、ハリーの顔が真っ赤になり、隣にいたロンがそれを羨ましそうにボーっと口を開けて見ていた。
「久しぶりデス、ハリー」
「やあ、うん……」
「私、いまグリンゴッツでパートタイムで働いていマス。ビルが私にすすめてくれまシタ。英語が、もっとはなせるようになるタメデス。それに、彼のかぞくを知るタメデス」
「家族を知るため?」
「そうです、私、ビルと結婚シマス!!」
幸せそうな顔をするフラーには決して悟られないように、ハーマイオニーがこれでもかと言うくらい醜悪な顔をした。
そう、ここの家の女性陣はクリスを抜かし、みんなフラーが大嫌いなのである。
唯一救いなのは、フラーがそれに対し不満を持っていない事だ。
まあこの美貌の持ち主だ、もしかしたら女性に疎まれるのは慣れているのかもしれないし、ただ単に鈍いだけかもしれないし、その両方かも知れない。
ハーマイオニーが睨みつける中、ハリーは必死に言葉を選んだ。
「そうなんだ……えっと、その、おめでとう」
「ありがとございマス!!」
そう言ってフラーが再びハリーの頬にキスをした。その瞬間、またハーマイオニーが嫌な顔をした。
用事を終えたフラーは部屋を出ていき、それにつられる様に出入口までフラフラ歩いていくロンの首根っこをハーマイオニーが力づくで掴んで引き戻した。