第2章 【スタートライン】
数週間前、魔法省に侵入したヴォルデモートが『予言』を手に入れようとしていたことは、最早万民の知るところである。
そればかりか、その予言でハリーが『選ばれし者』として、ヴォルデモートを倒すことのできる唯一の人間だと告げたと、新聞の一面にハッキリ書いてあるのだから、情報漏洩も良いところだ。
その一方でクリスに関しては、召喚術という稀有な術を使ってハリーを守った救済の天使だとか何だとか。
本人からすれば吐き気のする記事ばかり載せられているのだから、1週間もすれば真面目に読む気も失せるというものだ。
「そうそう、ハリーが昨日の夜に到着したのよ。クリスはまだ会ってなかったでしょ?まだ寝てると思うから、後で声をかけてあげて」
クリスが2杯目の紅茶を注いでいると、ウィーズリーおばさんからハリー到着という嬉しい知らせを聞いて、クリスのテンションが上がった。
おばさんは後でと言ったが、ハリーが起きるのを待ってなんていられない。ロンとハーマイオニーに声をかけると、2人ともハリーを叩き起こす事に快く了解した。
「ハリー!起きろ!」
「もう朝だぜ!!」
3人はハリーの泊っている部屋に押し入ると、問答無用でカーテンを開けて布団をはぎ取った。
ハリーはびっくりして夢中で眼鏡を探し慌てて顔に押し当てると、3人の相変わらず元気そうな顔を見て、安心したような呆れたような笑みを浮かべた。
「もうちょっと優しく起こしてくれない?」
「これでもハーマイオニーに比べたら優しい方だと思うが?」
「失礼ね、いつも起きない貴女が悪いんじゃない」
ハーマイオニーは自分の正当性を主張したが、クリスは肩をすくめてみせた。
それから3人はそれぞれハリーのベッドサイドに腰を掛け、夏休み中に何かあったか訊ねた。ハリーは新しい先生を長い隠居生活から引っ張り出す為に、ダンブルドアと一緒に出かけたことを話した。
「へえ、新しい先生ねぇ」
「どんな人だったの?」
「スラグホーン先生って言って、ちょっとセイウチに似てる。以前はスリザリンの寮監だったらしいよ」
「スリザリン?」
その言葉にクリスが引っかかった。