第2章 Sketch1 --莉奈
患部に指を当てたまま、彼女の足元に跪いた私は早速そこに顔を近付けました。
「あっ…、やだレニー!」
「ちゃんと目は閉じてますよ」
そういう意味じゃないけど、と莉奈が困ったい様な声を出しました。
彼女の血の香りに微かに混ざる不純物。
確かにこんなものを自分の所有物に塗られるのは不快ではあります。
「『所有』?」
そんな勘違いをしてしまうのも、もう何度もこうしているからでしょうか。
最初は手首、次はふくらはぎ、鎖骨らへんに瞼。
次は手の指の間、その次は……。
こないだは、二の腕の内側でしたっけ。
莉奈は特別とはいえ、そもそも私たちは映画みたいに首筋ばかり噛むってわけではありません。
人のものとは異なる自らの長い舌をれ、と伸ばし、彼女の肌に這わせていきます。
莉奈の脚が揺れるのが分かりました。
痛みを感じさせぬように、周りからゆっくりと慣らします。
浅い静脈が張り巡らされているここは傷の無い所からもそこかしこに甘い香りが漂っていて、私は喉を鳴らしてしまいます。
「れ、レニー……」
それらと自分の睡液を混ぜ合わせ、傷に近付く頃、私の体液は彼女の麻酔の役目を果たしているのです。
しかしながら、傍から見るとこれは単に、大男が若い女の足の間に顔を突っ込んでる姿にしか見えないでしょう。
そして実際そうなのですから否めません。