第9章 Sketch3 --また冬に会おう※
「あんたに会いに。俺はケリー。物の売買をする仲達の仕事をしてる。ちなみに力仕事も料理も得意だし、綺麗好きでもある」
「その要領を得ない話の内容からは、とても取引を生業にしてる者だとは思えないな」
ケリーと名乗るその男。
濃い灰色の短く刈った髪に鋭角的で精悍な顔付き。
元捕食者特有の、見る者を居竦ませる鋭い目をしている。
しかしそんな外観にそぐわずゆったりとした話し方で身なりも悪くない。
「取引をしてるつもりだよ、これでも。俺と今年の冬を一緒に過ごさないか」
「……申し訳ないけれど不要だね。私は犬族だからといってつるむ性質じゃないんだ」
「そういうとこも俺と気が合う…タダでとは言わない。あんたも滅多に見た事は無いだろう」
男がくい、と自分の後ろの荷車を顎で指した。無造作に原木のままの木材が何種類か積んである。
「紫檀、鉄刀木、その他東方でしか取れない銘木らしいけど」
「………………」
堅く重い木の為に、加工や細工が難しいと言われている。
だがそれだからこそ、作られた物は重厚な艶を放ち装飾に深い陰影を与える。生前に彫刻家だった私の主人がそう教えてくれていた。
「あれは鉄の様に重い。あんな物をここまで一人で運んで来たのかい」
馬二頭位使わないと無理だ。呆れてそう言うとその男、ケリーは何でもないという風に肩を竦めた。
「余り木で俺はチェスの駒を作るよ。それで寒い冬を楽しもう」