第9章 Sketch3 --また冬に会おう※
辛うじて枝に繋いでる枯れた一葉がひっきりなしに細かく震えてしがみつく、そんな風が冷たく吹く日だった。
いつも通り工房で請け負った彫刻の仕事をしていると、出入口に続く裏庭から低く響く男の声が聞こえた。
「大きな作品だな、それ。女の身には余るだろう」
声の方向へ振り向くと、私よりも少しばかり若そうな体格のいい男が庭の柵に肘をつきこちらを見ていた。
その時私は内地にある、小さな宿屋の壁を飾る外窓の製作をしていた。
「生憎だけど、私はそんなにヤワじゃないのでね」
「だろうね。そんなものに繊細な細工を施す。……しっかりと地に足をつけて人を見据え、助けを惜しまない。そんなあんたに付け入る隙を、今俺は必死で考えてる訳だが」
付け入ろうとするその頭の中はどうでもいいとして、私のことを知っている彼が何者なのかと若干不審に思い、手を止めて男の元へ近付いた。
そんな私を見て彼はくっきりとした眉を上げる。
「しかも春にルカが手紙で寄越してきた通り、今までお目にかかった事も無い美女ときた」
一見人好きはするが警戒心が強かったあの青年、ルカ君を思い出した。
「同種……違うな、狼族か。ここの住人が私に何の用だい?」