第7章 Sketch2 --漆黒
「お兄ちゃんがそんな優しい訳ない! そもそもお兄ちゃんが、あの水晶を使って私に毎晩夢をみせて」
「…え、ちょっと」
身に覚えがない、という表情のリュカを見ていると余計に怒りが湧いた。
「あんな、いやらしい……酷い!」
『毎度違う男に腰振ってんのか』
あんな下品な事を私に言ったくせに!!
「待てよ、ミーシャ。 それ誤解だ」
「───っまだ、そんな」
彼女が身を乗り出そうとするのを、リュカが手をミーシャの目の前で開いて制した。
「忘れた? 俺はロースクール上がってからずっと寄宿舎にいるし、帰ってきたの一昨日の晩だぜ? いきなりあんなん見て……驚いたけど」
ミーシャが固まったままそんな彼を見る。
『リュカは優秀だわ。 お父様と同じ学校だなんて』
お父さんの学校。
確か、全寮制の。
……あれは何年前の事?
ミーシャが必死に自分の記憶の引き出しを漁った。
「大体、水晶? そんなんで夢まで見せるって。 そんな事出来んのは、うちでは……父さん位だろ 俺の事もおかしいって、それも夢か?」
ミーシャはじっと目の前の兄を見詰めた。
正直、分からなかった。
ただ今自分の目の前のリュカは、彼女が思っているリュカではない。
彼のその瞳みたいにふんわりとした空みたいな。
色が、雰囲気がまるで違う。