第7章 Sketch2 --漆黒
だけど、そうしたら。
「お父さんはそういう人じゃない。お兄ちゃんも知ってるでしょう?」
まだ何かの間違いだったのならましな気がした。
ミーシャの何かにすがる様な目だった。
お酒を飲みすぎたのかもしれない。
酔ってお母さんと間違えたのかもしれない。
「────」
リュカは何も言わなかった。
ミーシャの頬に一筋の涙が伝う。
「……そうじゃないなら、それなら、最初から……あれは、お父さんが全部?」
あんな事を私にするために?
リュカがそれには答えずミーシャから目を逸らした。
「ここ、前にうちの使用人が使ってた家だ。 うちからは離れてるし、今は空き家みたいになってるけど……俺も正直家には戻りたくないし、しばらくここで暮らそう…おいおい、もう少し元気んなったら、話してくれればいいから」
ミーシャも家に戻る気は起らなかった。
信じられる人なんてもういない。
家族以外の、リュカ以外の男性が、男がたまらなく怖い。
これ以上失いたくない。
─────なくしたくない
そんなミーシャの心理が彼女からリュカへの猜疑心に蓋をした。
「……ありが…とう」
「大事な妹だからな。 気が向いたら食え」
リュカがぽん、とミーシャの頭の上に手のひらを乗せ、柔らかく微笑んだ。