第7章 Sketch2 --漆黒
呆然として座り込む父親を他所に、リュカは顔を覆ったままのミーシャの体の下に腕を入れた。
肌を露わにした小さな娘の姿を見、父が表情と体をびくりとこわばらせる。
「……私が」
「───ミーシャ? 大きな音がしたけど一体」
階段を登ってくる音がし、開け放された戸口からこの屋敷の夫人、ミーシャたちの母親のエイダが姿を現した。
普段は滅多に騒いだりしない大人しい性格のミーシャだっただけに、すぐにその場に家族全員が集まった。
エイダが辺りを見回した。
ミーシャのベッドの上に裸で座っている自分の夫。
乱れた衣服の自分の娘は泣きじゃくり、兄のリュカに守られる様に抱き上げられている。
その部屋の異様な空気に当てられたのか、エイダが数歩後退り壁に背をついた。
「あな、た……これ、どういう事?」
「違う! 私には覚えがないんだ」
「…っ見てらんねえ」
二人の言い合いが始まろうとした時、リュカが舌打ちをした。
硬い表情のままミーシャを連れ、その室から大股で、その日のうちに屋敷から出て行った。