第7章 Sketch2 --漆黒
「ミーシャ!?」
扉に何か派手にぶつかる大きな音がして、黒い影が部屋の中に飛び込んできた。
ドアには木製の簡易なかんぬきがかかっているが、それが閉まっていたのを力任せに開けた様子だった。
「悲鳴、が 何があっ」
灯りを向けてミーシャに覆い被さっている父親を見た瞬間、リュカが目を見張ってたじろぐ。
暖色の光に浮かんだ顔は、酒に酔って我を忘れているといった様なダリルの表情だった。
「リュカ……?」
息子の名を呟いてそこに段々と、普段の色が戻ってくる。
ダリルが目線を下ろし、すると両手で顔を覆って声も無く泣き続ける自分の娘が居た。
それから全裸の自分と、体液に光る自身の。
「………? ミーシャ?」
「……父さん……いくら何でも、そりゃ…駄目だろ」
真夜中の外の風は強く、ガタガタと部屋や廊下の窓を揺らしていた。
時折小枝がガラスを叩き、夜が唸りをあげている様にも聞こえる。
リュカがその場に立ち尽くして怒りと悲しみをない混ぜにした目をしていた。
それでも父親はまだ現状を把握出来ず、リュカと自分たちの姿を交互に見ている。
「何を……どうしたんだ、リュカ? 私は……」
「ミーシャ、こっから離れるんだ」