第6章 Sketch2 --解呪
「ミーシャ? どうしたんだい。最近はどうも調子が悪そうだ」
ドアを細く空けてからコンコン、とノックするのはミーシャの父親、ダリルの癖だった。
「お父さん」
「顔色がよくないな。 夕食も残してたろう」
魔法学者の父。
母さんに淹れてもらった、とダリルは両手に持っていた紅茶のカップの一つをミーシャに手渡した。
一人用のソファを運んできて彼女の向かい側に腰を掛ける。
「ありがとう」
ミルクがたっぷり入れられたそれに口をつけ、ミーシャはほっと息をついた。
両手を暖めながら、彼女がじっとダリルの顔を見詰めた。
お父さんなら。
「ん?」
お父さんなら、呪いを解く方法を知っているかも知れない。
大丈夫か? ダリルがぼんやりとしている娘を心配そうに覗き込んだ。
髪も瞳も闇の色。
こんな外見をしていても、お父さんは清涼な深緑の心を持っている。
ミーシャは父親が好きだった。
こんな事をリュカにされたと知ったら、お父さんはがっかりするだろう。
それなら、お兄ちゃんの名前を出さなければいい?
「あの、お父さん……」
「なんだい? 言ってごらん」
ミーシャがおもむろに父に手渡したのは、毎朝シーツに落ちているあの赤紫色の石の欠片だった。
捨ててしまいたかったがそうも出来ず、結局全て手元に取ってある。
「お父さん、これが何か分かる?」