第5章 Sketch2 --苦悩
ミーシャには兄のリュカこそが悪魔の化身か何かにしか見えなかった。
彼女は兄に比べればパッとしない子供だったが、物事の真実を見抜く目を持っていた。
目を凝らすと薄ぼんやりとその本質が彼女には見えたのだ。
他人に隠れて動物を殺す。
平気で人を騙し、罪を被せる。
リュカは漆黒の暗さをその身にまとう人間だった。
あの夜。
妹の部屋を訪問した彼は突然ベッドの上に彼女を倒した。
ミーシャの動きを封じるために彼女の上に跨り、手のひらの石を転がしながら彼が話した。
何でこんな事を、そう抗議しかけるミーシャに向かって。
『お前が俺の事をどう見てるのか、知ってるよ─────』
彼女は嫌悪もあらわに自分の下腹に手を当てた。
赤紫色に鈍く光っていた、六角錐の水晶。
それがひと月前の夜、リュカが彼女に唱えた呪いによりミーシャの胎内に吸収された。
夜毎ミーシャがうなされ、酷く淫らな夢に悩まされる様になったのはそのためだ。