第5章 Sketch2 --苦悩
「……オスの匂いがする」
すれ違いざまにリュカがぼそりとそんな事を呟いた。
ミーシャは立ち止まって兄を見上げた。
「…お…兄ちゃ、なんで、私にあんな」
「なあ、お前が誰とやったか分かるか?」
彼はミーシャの夢の事を知っている。
「……あ、あれは現実なんかじゃない」
「お前はな、悪魔に見初められたんだ」
「──────」
「ヤツらはそん時に、自分好みの外見になるそうだよ。 相手はいっつも同じ男なの?」
ミーシャが黙って唇を噛んでいるとリュカがへえ、とでも言いたげに眉を上げた。
「……はっ。毎度違う男に腰振ってんのか。 そんなに楽しんでるんならせいぜい俺に感謝しろよな」
毎晩悪夢をミーシャに見せるのは彼の仕業だった。
16歳ともなると、年頃の女性はみな彼を振り向いて見る。
そして礼儀正しく親切だった。
あくまでその外側は。