第5章 Sketch2 --苦悩
ぼんやりとした頭を抱えたまま、彼女は二階から階下へとつながる踊り場を歩く。
階段の途中にある窓の外に目をやると、まだ明け方になったばかりのようだった。
『とある家柄の出でさ』
ミーシャの家は国の中でも高名な魔法学者である父を持つ家系である。
悪夢で目が覚めたミーシャは喉がカラカラで、キッチンへ水を飲みに向かっていた。
「ミーシャ、どうした? 青い顔をして」
その声に飛び上がると、四つ違いの兄、リュカが水を入れたグラスを手に、廊下の向こうから歩いてくる所だった。
俯いていたせいで気付かなかった。
昔幼い彼が微笑むと、大人たちはその愛らしさに目尻を下げた。
自然学も、薬草学の成績もいつも一番で。
けれどいつからか、ミーシャは兄のその視線を怖いと思うようになっていた。