第17章 Sketch6 --風龍
「地上の様子ですか?」
特になんの用事がある訳でもありません。
ですが飛ぶ練習代わりに、村の人々の姿を遠くから眺めるのもいいだろう、わたしはそう思いついたのです。
そんなわたしにイヌワシは体をひるがえし向きを変えました。
「貴女様がそうやって空をゆけるのは風の龍に深く愛されている証拠。 昨今は以前より澄んだ風をこの身に浴びる恩恵を、私たちも受けております。 どうぞ、私がご案内いたします」
そんな事を言われて、鋭い金の瞳を和らげて先導してくれるイヌワシの後ろを、幾分か火照った顔を冷ましながら、何とかついて行きます。
「ここいらはかなり上空なのですが。 嫁御は冷えたり空気のうすさに体がわるくならないのですね」
そういえば、今朝は雪ともいえない氷の粒が空を舞っていました。
それらに不便を感じなくなりつつあるのは、自身の加護のせいなのか風龍のしるしのお陰なのかは分かりません。
ちょうどここの下辺りです。 教えてくれたイヌワシに少し待ってもらうように頼み、わたしは体の力をゆっくりと抜いて下へと降りていきました。
「────え……暑い……?」
地上がややはっきりと姿を表した辺りで、わたしは足を止めました。
まるで真夏の日照りのような熱さです。
今は蝉の鳴く季節ではありません。
眼下に広がる村の屋根や地面は、蜃気楼のような熱気に覆われ、目をそばめて視界に入る草木や穀物も乾いている様子でした。
そこから逃れようとでもするように村から飛び出してきた小鳥に目をとめて、何があったのかと尋ねました。
「この匂い……貴女様はもしや風のお方様の……? 有難い。 しばし近くへ寄らせていただいて宜しいですか?」
そう言うと、小鳥がわたしのたもと近くに寄ってきました。