第17章 Sketch6 --風龍
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その後夕刻に夫の元へ戻ったわたしは、今日見聞きしたその出来事を彼に話しました。
わたしと行動を共にしてくれたイヌワシは、風の龍とは親しい間柄らしく、夫と挨拶を交わしたのちに傍の岩場の端に羽をたたんで休んでいます。
「火の龍の嫁というと、確か。 あの幼げな風貌の割に、気の強そうな娘か。 新婚で不和というにも早すぎるが……だが、心は移ろうもの。 私とて、沙耶。 お前とて。 この風とおなじに、気ままにゆくのが自然の姿ではないのか」
柔らかい口調とともに深い濃緑の瞳がわたしに問いかけます。
わたしはそのときなんと返していいのか分からず曖昧に頷きました。
座っている彼に身を寄せると、彼は自然に胸と腕の間にわたしを収めてくれました。
「……しかしお前の言うとおり、最近の地上の暑さは敵わん。 明朝はお前に地上と雲上から、半円の七色に輝く虹を見せたかったのに。 火龍とはまた……厄介な」
夫は最後は小さく呟くようにそう言い、視線を空に移し考え込みました。
彼の肌は繊細で、あまりの強い陽には火傷をしてしまうそうです。
「明日の日中、わたしは他の花嫁たちとお茶会があります。その時彼女にそれとなくことの次第を聞いてみましょう」
「私が近くまで嫁御の送り迎えをします。 私は暑さにも寒さにも強いですし、よろしければ」
わたしたちの話に耳を傾けていたイヌワシが送迎を引き受けてくれました。
「ふむ……少し心配だが、では頼む」
その言葉を聞いて夫は頷きを返しました。
風龍は多少気まぐれですが、結局のところはわたしをとても大切にしてくれます。
______移ろうのが自然の姿
そう言われてわたしは不安になりました。
ふと、あの揺るぎのない、水龍に会いたくなりました。