第2章 Sketch1 --莉奈
「莉奈の体はまだ清い。 こんな化け物に捧げるべきではありません」
「レニーは……化け物なんかじゃない」
「今の姿かたちは確かにそうでしょう。 けれど私の体は、生き血を啜るために在ります。 人の女性を抱くためでは無いんですよ」
「レニー? こっちを見て」
莉奈が『お願い』をしてきます。
だから私は彼女に目を向けました。
彼女の瞳は深い悲しみの色をしていて、初めて見るそんな莉奈の表情に私は狼狽えました。
「貴女を、貴女の体に、私は赴くままに歯を立てて、結果肉欲のみに捕らえられた貴女は、生きる限り私を求めるでしょう。 そして生ける屍のモロイに成り下がります」
「そばに。 居てくれない、の?」
細く、不安げな莉奈の声が聞こえました。
まるで最初に、彼女に出会った時の様な。
「莉奈。 貴女は普通に人として生きるのです。 仮に私と居たとて、そこにはもう、貴女の心は無いのです」
「それでもいい、って私の願いは聞いてくれない? 誰も見てくれなかった私の事をレニーだけは見てくれた。 私の我儘を、いつも聞いてくれたのに?」
どう答えていいのか分かりませんでした。
真っ直ぐに食い下がってくる彼女の瞳を直視出来ませんでした。
だって私はどうしたって、きっとそうしてしまうから。
莉奈の唇に、胸の頂きに、肉芽に。
私の双刃に刺された莉奈は気が狂う程の快楽を与えられるでしょう。
かつて誰も迎えた事の無いその証さえにも、痛みさえ感じずに、もう戻れない私の欲望を刻み込まれるのです。
「一緒に過ごした三年の間、貴女は見違える程美しくなりました。 私は傷付いていた貴女の肌を癒したに過ぎません。 今ならもう、その辺の男性は貴女に振り向かざるを得ないでしょう」
出会った頃、彼女は長年の体質に悩まされ、身体はかさぶたや傷の跡で本来の姿が損なわれていました。
私は彼女から血を戴き、彼女は元の彼女に修復され、それで終わるはずでした。