第14章 Sketch5 --朝凪のくちづけ
階段を下りてゆっくりとこちらへと近付いてくる。
「……よう、チビ」
チビじゃない。
身長160センチあるから。
「お出かけ、してたの?」
「仲間内で。 連休だからなー」
寝みぃな、彼が呟いて私が立っている隣にどすんとお尻を落とす。
仲間内。
彼の友だちなんか私は知らない。
……呼び捨てで呼ばれるような、親しそうな女性がいるとか。
複雑な気分になりつつ私もその場に再び腰を下ろした。
「……私も、お酒飲めるよ?」
少しなら。
「オマエには10年早い……夜明け前か。 いい時間に来れた」
そもそもタクマさんは口数が多い方じゃない。
こうやってぼんやりと海を眺めるのが好きなんだと思う。
それを邪魔しない様に口を閉じる。
そして私はこんな風に一緒に静かに過ごす時間が好き。
ボォ───────……
時々波に混ざる汽笛の音に耳を澄ませた。
タクマさんは橙色のグラデーションが広がる明け空をじっと見上げていた。
彼の横顔をちらりと見てから、もう日の出が間近の、正面の水平線に架かる黄金の帯を見詰める。
「タクマさん、私……大学卒業したら…こっちで働こうかと思うんだけど」
「……なにそれ、物好き?」
「構わないかな?」
「何で…オレに聞く」
「好きな人が、ここにいるから」
しばらく返事を待つも反応が無い。
「そしたらこうやって、毎朝一緒にいていい?」
「綾乃の頭ん中はまだ夏休みか……」
そう言って小さく笑う。
また適当にはぐらかされてる。
でも私は負けない。
「迷惑じゃないって思う?」
「昨日、止めとけって言った」
「止めない」