第14章 Sketch5 --朝凪のくちづけ
目の前の海が雨降りのガラスみたいに滲む。
呆れたようなため息が聞こえ、後ろでタクマさんがごろりと横になる気配がした。
「……いいって言って…お願い」
「……オマエさあ、泣く位なら来んなって。 だれも強制してねえよ」
迷惑がられている、それ位は分かる。
勝手にこっちのペースで答えを要求して。
けれど私だって初恋から今まで片思いを通してきた。
……これも私の身勝手だけど!
振り向いて、寝転んでいる彼の両端にざすんと手を付く。
「泣いてない」
「……なに…いきなり襲うな」
「襲いたいよ。 もし、私が男だったら既成事実作るのに」
滅多に表情を変えないタクマさんが呆気に取られて私を見上げている。
「上手くやれる自信なんてないし…よく分かんない」
「……っ待て」
彼が着ているTシャツの裾から中に手を滑らせると驚いた様に手首を掴まれた。
そしたら当然私の力じゃそれを強行するのは無理なわけで。
「………っん、ぐぅ…」
「……落ち着け、綾乃。 それにオマエめちゃくちゃ泣い」
「泣い、て…ない」
ここまで来たら引けないもの。
彼のがダメなら私の服。
前開きのパーカーのファスナーを一気に下ろす。
恥ずかしいなんて、そんなの構ってられない。
ついでにブラのホックも外し………掛けるとまたその腕を掴まれる。
「……ッ離」
「こんなとこで脱ぐなって。 ……捕まるから」
「いい、別に」
「いや捕まんのはオレだから」
そんな風に言い合ってると腕を取られた時に爪で弾いてしまったのか。
背中の圧迫感がふと無くなってブラのホックが外れ、私が馬乗りになっている彼の目の前でぽろんと胸が揺れた。