第1章 全ての始まり
デルカダールを出て南へずっと歩いていたのだが、あたり一面草原のみだ。弱っちいスライム達が蔓延っているこの地域は、初心者が冒険を始めるに当たって適切な場所であろう。と言っても、私は別に冒険初心者という訳ではない。旅に出てから5年が過ぎているし、剣・弓・棍なら自由自在に操ることができる。今ではフォースというものも操ることができて、攻撃に属性を与えることだってできるのだ。まぁ弱点属性がない魔物ならどうしようもないのだが。
「スライム狩るのは飽きてきたなぁ」
今の所、レベルは40程。スライムも秒で倒せる程にはなった。旅に出てすぐに武器を扱う様になった訳ではなく、偶々一緒に行動していた戦士達が教えてくれただけなので、実を言うとまだまだだったりする。
まぁ、そんなどうでもいい話は置いておくとして…私は今、若干標高の高い場所に来ている。渓谷地帯なので気候は涼しげな様だ。雪国出身故に涼しい気候は大好きだし、寒い気候もへっちゃらである。その分砂漠や火山などの暑い気候は苦手としているが。しかし、気候云々を言っている場合ではない。今は人生最大のピンチに襲われている。旅人や冒険者ならば絶対に一度は経験した事がある筈なのだ。
「うぐぅ…お腹すいた…」
お腹すいたと言うと大体兄がじゃがいもの皮を剥いてくれて…なんて走馬灯がちらほら。それもその筈。デルカダールを出てから何も口にしていない。馬で行くなら1日かからない距離でも、徒歩で行くのだからかなりの時間がかかる。それに加えて色んなところに寄り道していたが為に、こんな空腹状態に陥ってしまったのである。私だってとある目的が無ければ好き好んでこんな辺境の地に足なんて運ばない。だが、この渓谷地帯を抜けた先に「テオ」という人物が居るはずなのだ。ナナシのトレジャーハンターとして名を上げた彼だが、今はこの先の村に隠居してらっしゃるとか。世界各地を回ったという事で何か知っていると良いな、という希望をかけて来たものの…。
「うぅ…もう、無理…」
お腹が空いて頭がうまく回らない。後もう少しで到着するのか、まだまだなのかもわからないが、兎に角もう足は動きそうにない。こうなれば仕方ない、誰かが来てくれると信じて倒れよう。これほどレベルもあると魔物も近付かないだろう、という安直な考えを持ちながら静かに目を閉じて寝転がった。